ICUやHCUでは気管挿管から気管切開となるケースも多く、医師だけでなく看護師も気管切開について理解しておく必要があります。
特に看護師は気管切開の準備やその後の看護ケアなど、医師とは違った視点で覚えておきたい事もあります。
この記事では、気管切開についての解説や気管切開前後の看護などを紹介したいと思います。看護学校では学ぶ機会がほとんど無いと思うので、新人看護師さんは是非参考にしてみて下さい。
目次
気管切開前の看護
以前まで気管切開と言えば、手術室で行われたり、電気メスを使用して大きく切開をして行われていたと思います。最近ではセルジンガー法というCVカテーテルを挿入するような方法で行なう場合が増えてきています。
どちらにせよ侵襲的な処置であることに変わりないので、看護師はしっかりと準備が必要です。
気管切開を行うにあたっては
- 同意書の有無
- 抗凝固薬の中止の有無
- 当日は絶食、経管栄養を中止
- 気管切開物品の準備ができているか
といった点を看護師はチェックしておきたいです。
特に当日になって気管切開用のカニューレが無いといった事にならないよう、前日からしっかりと準備しておきましょう。
気管切開後の看護
ICUやHCU病棟における気管切開後の看護について解説していきます。
気管切開直後
気管切開直後は鎮静薬や筋弛緩薬の影響などがある状態です。
覚醒状態など意識レベルを観察していきます。また気管切開部の出血や血腫の有無、気管カニューレのカフ圧の確認なども行いましょう。
そして人工呼吸器の同調性など呼吸状態の観察も大切です。
意識状態
気管切開部の出血・血腫
気管カニューレのカフ圧
呼吸状態
気管切開~1週間程度
人工呼吸器の離脱に向けて、鎮静剤からの離脱、経口摂取の再開、リハビリテーションによる離床を行っていきます。
低酸素脳症など、患者さんによっては人工呼吸器の離脱が困難な場合がありますので、患者さんの病態に合わせてリハビリを進めていきます。
気管切開で会話が行えない為、筆談や文字盤など、患者さんとのコミュニケーション方法も確立させるようにします。
ICUやHCU看護師は一般病棟への転棟に向けて看護師主体のリハビリを行う必要があります。いつまでも身体抑制や鎮静剤を継続するのではなく、離床を進めていき不要なデバイスが早期に抜去できるようにしていきましょう。
筆者の施設では人工呼吸器のウィーニング(離脱に向けて呼吸器のサポートを少なくしていくこと)が進めば、初回の気管切開用カニューレ交換でスピーチカニューレへの変更が可能か医師と検討しています。
患者さんが呼吸器から離脱できた場合に使用できるカニューレで、普通のカニューレと同様に人工呼吸器と接続できるのですが、スピーチバルブと呼ばれる特殊なコネクタを装着することで発声することが可能となるカニューレです。
自発呼吸がある、人工呼吸器から離脱できる、喉頭の機能が良好であるという条件がありますが発声することが可能となり、患者さんのコミュニケーションが取りにくい事によるストレスを軽減する事ができます。
詳しい管理方法はスピーチカニューレの看護の記事を参考にしてください。
気管切開から2週間以降
この頃になると瘻孔もしっかりとできているので、気切カニューレの自己抜去に対しても再挿入で対応できます。
鎮静剤や身体抑制は終了している事がほとんどであり、リハビリがメインとなっていきます。
患者さんの状態よっては気切カニューレの離脱も行える場合があります。気切カニューレの離脱は完全に抜去するか、レティナと呼ばれる内筒を留置するかの二通りがあります。
気切カニューレの抜去
気切カニューレの抜去は特に準備するものも無く、そのまま抜去しています。
抜去部がそのままだと、抜去部から空気が漏れてしまうので、蓋をする意味でガーゼ付きのオプサイトなどを貼付します。
およそ1ヶ月もすれば気管切開の孔は閉じると言われています。
気切カニューレを抜去した場合、気管切開孔は徐々に狭くなっていき、最終的には閉鎖されていきます。
気切カニューレを抜去したいけど、場合によっては再留置するかもしれない患者さんの場合は、レティナと呼ばれるシリコンの筒を留置します。
レティナを留置しておくことで気管切開部が閉鎖する事を予防し、レティナから気管吸引を行う事も可能となっています。
Yガーゼってあり?なし?
Yガーゼは「菌の温床となりやすい」「摩擦による皮膚トラブルがおこりやすい」「気切部が観察しにくい」という点から、基本的には使用しないようにします。
ただし気管切開直後はじわじわと出血する事も多いので、筆者の施設では気管切開直後から翌日まではYガーゼを使用します。
翌日に気管切開部の出血が無ければYガーゼを外して管理を行ないます。出血が続けば医師による縫合止血などが必要となる場合があります。
気管切開後の鎮静はどうする?
気管挿管中は苦痛を伴う為、適切な鎮静が必要です。
一方気管切開後はしっかりとリハビリテーションを進めていく必要があるので、基本的に気管切開後は鎮静を中止するようにします。
ただし患者さんによっては鎮静を中止する事で頻呼吸や苦痛が出現する事もあるので、患者さんによっては徐々に鎮静剤を減量して離脱を図る場合もあります。
気管切開用カニューレの交換時期は?
筆者の施設では気管切開後は2週間経過してから初回のカニューレ交換を行ないます。その後は1週間毎にカニューレの交換を行っていきます。他の施設でもこのように交換されているかと思います。
初回が2週間経過してからなのは、気管切開部の瘻孔がしっかりと形成されるのには2週間程度必要とされているからです。
瘻孔はピアスの穴をイメージして頂けると分かりやすいかと思います。瘻孔がしっかりとできていないと入れ替えの際に、皮下組織にカニューレが迷入する危険性があります。
実際に気管切開後の早期のカニューレ交換において、カニューレが皮下組織に迷入し、患者さんが死亡した事例もあります。
気管切開管理におけるトラブル対応の看護
気管切開患者さんのトラブル対応をまとめてみました。参考にしてみて下さい。
気切カニューレの早期事故抜去
カニューレの事故抜去を発見するとパニックになるかも知れませんが、看護師は落ち着いて対応するようにしましょう。
事故抜去時に大切なのは呼吸です。人工呼吸器管理中の患者さんなら、バッグバルブマスクを用意し換気を行いましょう。
気管切開患者さんでもマスクを口にあてて換気をしましょう。ただしそのまま換気していると気管切開部から空気が漏れるので、清潔なガーゼを気管切開部に当てて空気が漏れないようにします。
※ここで注意が必要なのは咽頭や喉頭等を手術で摘出した場合の気管孔、いわゆる「永久気管孔」の患者さんの場合は、口からの換気が出来ないので、直接気管孔へバッグバルブマスクを当てて換気する必要があります。
換気さえできれば医師の到着をゆっくりと待つことが出来ます。まずは換気をしっかりとできるようにしましょう。
気管切開から2週間程度しないと瘻孔が完成しない為、気管切開後1週間以内の早期抜去時に再挿入しようとすると皮下組織に迷入したという事例もあるので、呼吸状態が悪ければ再挿入せずに経口挿管するようにします。
声漏れ、カフ漏れ
患者さんの口から声が漏れている状態です。
原因としては気切チューブのサイズが合っていない事や、カフ圧が足りていない等です。
カフ圧は通常20~30mmHgが適正といわれています。カフ圧が少ないと気管内へ唾液などが流れ込み不顕性誤嚥(気づかないうちに誤嚥している事)からの誤嚥性肺炎に繋がります。
カフ圧が高いと気管壁の動脈圧が25~30mmHgといわれているので、これより高い圧での管理は気管壁の壊死を招くリスクがあります。
看護師は必ずカフ圧計を用いてカフ圧調整をしましょう。三方活栓を使用する事で、使用しない場合と比べてしっかりとカフ圧調整できます。
人工呼吸器からの離脱
気管切開直後は人工呼吸器が装着されているのですが、呼吸状態が良好ならば人工呼吸器の離脱を図ります。
人工呼吸器離脱の目安としては自発呼吸がある事が大前提になります。筆者の施設では自発呼吸があり、尚且つ高いPEEPを必要で無ければ、人工鼻とトラキアルベンチュリーマスクへ変更します。
トラキアルマスクでも呼吸状態が安定しているならば、スピーチカニューレへの変更や気切カニューレの抜去を検討します。
人工鼻とトラキアルベンチュリーマスクを使用している患者さんに加湿が必要な場合、酸素流量計へ蒸留水を注入して加湿を行なってはいけません。
人工鼻が装着されているので気道は加湿されず、人工鼻が加湿によって閉塞する危険性があります。人工鼻装着中の加湿は禁忌であることを知っておきましょう。
まとめ
・気管切開直後は出血や血腫、呼吸状態を観察する。
・気管切開から1週間以降はリハビリを進めていき、人工呼吸器の離脱を目指す。
・気管切開後は鎮静剤の離脱を目指す。
・気管切開後のYガーゼは基本的に不要。
・気切部の瘻孔形成は2週間ほど要する。
・気切カニューレの事故抜去時は口にバッグバルブを当てて換気する。気管孔はガーゼで覆う。
気管切開はなかなか教科書などで学ぶ機会が無いので、気管切開の看護で悩む看護師さんは多いのではないでしょうか?
このブログでは他にもICUで気になった事や悩むポイントを記事にしています。是非興味があれば他の記事も参考にしてみて下さい。