看護

人工透析は自己責任?いち看護師が考える医療者に必要な倫理観

2018年8月、東京・福生市の公立福生病院で40代の女性が透析治療の中止を選択し、1週間後に死亡していたニュースについて今回記事にしました。

この件がなぜ大きなニュースになっているのかと言うと

  • この女性は末期の腎不全であり、透析治療を中止する事は死亡する事を意味する。
  • この女性は治療中止に同意していたのですが、経過とともに生きる意思も示していた。
  • 透析を中止する選択肢を外科医から提示された

という点です。

いち看護師の視点でこの事例を振り返ってみたいと思います。また透析中止のガイドラインや、自身が体験した透析中止を選択した患者さんについても記載しました。

医師の言葉が透析中止の誘導になったのか

今回の事例では医師が患者さんに対して透析中止の選択肢を提示していました。

透析中止は「死」を意味する事になるので、患者さんにとっては医師に死ねと言われたように感じたのではないのでしょうか?

透析治療は毎週3回、3~4時間の治療を行います。もちろん透析中はベッド上で過ごす事になり、毎回の透析用の針の穿刺も必要になるので、精神的にも肉体的にも大変な治療です。

筆者は喜んで透析治療を受けている患者さんは見たことがありません、皆透析に対してストレスを感じています。

透析患者さんは医療費が高額という事もあり、透析治療を受ける事に後ろめたさを感じている人もいます透析患者さんは決して強い立場ではありません。

そういった立場の患者さんに死の選択を迫るという事は、精神的に落ち込んでいる人に自殺を勧めていると同じ事のように感じました。

 

患者さんが透析中止を希望する事はある?

透析中止については「日本透析医学会」のガイドラインが制定されています。

ガイドラインでは患者さんが透析中止を選択した場合、「患者が強い意志で拒否する場合は説得する」「患者や家族が意思決定を変えた場合は状況に応じて透析を再開する」となっています。

今回の事例では「医師が透析中止の選択肢を提示した」「患者さんはいったん透析中止を選択したが、亡くなる前に透析中止を撤回する発言があった」という点がガイドラインから逸脱したのではないかと問題になっています。

透析中止を選んだ患者さんには、傾聴が必要

筆者も透析中止を選択した患者さんを担当した事があります。

その方は40代と若いのですが、これからもずっと透析をしなければいけないこと、税金を使うのが申し訳ないといったことを訴え、透析に来ず自宅から出てこなくなりました。

医療スタッフが何度も訪問し、苦しくなったらいつでも透析ができることを伝えると、数日後に病院へ電話があり、「苦しいから透析を再開したい」と連絡がありました。

この方は『死にたいのではなくとにかく透析が嫌だった』苦しかった』『迷惑をかけて申し訳なかった』と入院された際に話してくれました。

透析を中止したいという訴えは「苦しい、聞いて欲しい」といった声だと思います。例えば自殺をほのめかす発言も、本当は自殺をしたいのではなく、苦しい思いを聞いて欲しいから発言する事がほとんどです。医療者はこういった患者さんの訴えにしっかりと傾聴する必要があります。

 

透析患者さんの医療費問題

『透析が国民医療費を圧迫している』『透析は税金の無駄遣い』といった中傷がネット上で目にする事があります。

確かに透析治療は一人あたり年間450万円のかかると言われており、年々増加する医療費問題からすれば無視できないのかも知れません。

しかし透析治療は決して無駄ではありません。透析をすれば確実に余命は伸びま、透析をする事で孫の顔を見ることが出来たと言う患者さんもいました。筆者の知り合いで透析治療を行っている人もいます。

透析は延命治療と言われていますが、高齢者の肺炎は治療をすれば余命が伸びる場合がほとんどです。人工呼吸器もペースメーカーも余命を伸ばすという意味では同じです。

治らない病気であるという点は、房室ブロックに対するペースメーカー治療や心不全に対するCRT(両室ペーシング)治療も完治しない病気であるので同じです。

なぜ透析が標的にされるのか?

ではなぜ透析がこれ程「標的」にされているのでしょうか?それはSNSなどの普及による「自己責任論」が蔓延した事のだと筆者は考えています。

2016年にフリーアナウンサーの長谷川豊氏は「透析患者は自己責任だから実費負担にしろ」といった発言で炎上しました。

生活保護の問題もそうですが、「自分が悪いのだから自分で何とかしろ」といった発言がネット上でみられます。

一見理にかなっている様ですが、それを言い出すと「インフルエンザに感染したら感染対策を行ったから自己責任」「交通事故で骨折したら安全確認不足で自己責任」となります。もともと国民医療保険は「みんなでお金を出し合って治療を受けられるようにしよう」というものです。

自己責任と言ってしまえば国民医療保険そのものが誰も使用できなくなってしまいます。

 

まとめ:医療者は強い立場。発言に責任を持とう

医師や看護師の言葉は時に患者さんの人生を左右する事になります。医療者が患者さんに死の選択肢を提示することは有り得ない事だと思います。

医療者の何気ない発言でも、患者さんが傷つく場合もあります。医療者は知識もあり、特に医師や看護師は患者さんの治療に直接関わるので、強い立場である事を自覚しなければいけません。

強い立場だからこそ、発言を気をつけ、発言に責任を持たなければいけません。

患者さんや家族さんの中には遠慮して本音を言えない場合も多いです。医療者は患者さんに不利益が無いように説明し、患者さんが納得のいくまで説明を行う必要が求められます。