看護

低体温療法の看護、ICU看護師がみるべき観察ポイントまとめ

低体温療法は心肺停止後の患者さんに行うことで、脳を保護する効果を狙う治療であり、脳低体温療法とも呼ばれます。

ICUでは比較的行われる治療なので、ICU看護師は低体温療法の観察項目等を理解しておく必要があります。

低体温療法は基本的に心肺停止後に行われるので、緊急入室と同時に開始される事が多いです。事前に低体温療法について理解しておかないと、突然の入室に対応できない場合もあるので、しっかりと日頃から理解しておきましょう。

低体温療法とは?

心肺停止後に自己心拍が再開した場合、脳への酸素供給が途絶えた事により蘇生後脳症と呼ばれる脳障害が生じることがあります。

その昔、凍結した水中で溺れ、20分以上心肺停止状態になったにも関わらず、脳の後遺症がなく蘇生が行えたという症例がありました。その時救助された人の体温は20℃台まで低下していたそうです。

このような症例から、低体温は脳を保護する作用があると考えられ、心肺蘇生のガイドラインにも低体温療法の有効性が記載されました。

また低体温療法は心臓血管外科の手術でも応用され、大動脈解離の手術等では患者さんの体温を20℃台まで低下させることで心停止手術を可能としています。

つまり心肺停止後の患者さんに対し、脳保護を目的として低体温療法を行うのです。



心肺蘇生から心肺脳蘇生へ、心停止後症候群(PCAS)とは?

従来の心肺停止患者さんに対する治療は、自己心拍の再開の確率を上げることでした。しかし近年心肺停止患者さんの救命率が向上している事により、治療目標が『救命から社会復帰』へと大きく変化しています。

心停止後に起こる障害を心肺停止後症候群(PCAS:post cardiac arrest syndrome)と呼び、病態としては脳の虚血や再還流障害による脳損傷や心筋虚血による心筋障害などがあり、適切に対応できないと80%以上の確率で院内死亡すると言われています。

PCASの治療には、低体温療法、冠血行再建治療(PCI)、循環動態安定化、血糖コントロールなどがありますが、特に脳神経学的後遺症を軽減させる低体温療法と、心停止の原因疾患を治療するPCIの組合せが重要です。

ガイドライン

2010年のAHAのガイドラインで病院外での心停止(初回リズムがVF)後、自己心拍が再開した昏睡患者さんに対して低体温療法(12~24時間、32~34℃に冷却)を行うことが推奨されています。

蘇生後脳症

心肺停止によって脳への酸素供給が途絶えると、意識は数秒で消失し、心停止時間が3~5分以上になると、蘇生が行えても脳に障害が残ると言われています。

心停止後に自己心拍が再開した際におこる脳障害を蘇生後脳症と呼び、蘇生後脳症の後遺症は患者によりけりで、社会復帰できた例もあれば、植物状態や最悪の場合は脳死となる場合もあります。



脳低体温療法の適応

・目撃のある心停止で成人の患者さん

・蘇生後自己心拍が再開している

・心停止時の初期リズムがVTかVF

・血行動態が安定している

上記が一般的な脳低体温療法の適応基準となります。

病院によっては、80歳未満であること、院内心停止ならPEA(無脈静電気活動)やasystol(心静止)も適応とするなど、独自に適応基準が定められている事があります。

また血行動態が安定しているの捉え方も施設によって異なります。大体は収縮期血圧が80mmHg未満でないことが条件となります。

低体温療法と平温療法

2010年から2013年にオーストリアおよびヨーロッパで行われた研究で、院外心停止蘇生後の939人を対象に、蘇生後体温を36℃で維持管理した群と33℃で維持管理した群では神経学予後と生存率に差がなかったとされています。

この事から低体温が脳保護効果があるというより、蘇生後の発熱が脳に悪影響を及ぼすと考えられ、蘇生後に体温を36℃台で管理する『平温療法』も行われるようになりました。



低体温療法の合併症


・心拍出量の低下、不整脈

・鎮静による血圧低下

・高血糖

・出血傾向、DIC

・易感染状態

低体温療法によって体温が低下すると、心拍出量の低下や不整脈といった循環障害、カテコラミン上昇による高血糖、血小板機能低下による出血傾向など合併症も多いです。

看護師はしっかりと低体温療法における合併症を理解しておく必要があります。



低体温療法の看護

低体温療法は低体温療法導入期低体温維持期復温期に分けられます。それぞれの時期における看護を解説します。

低体温療法導入期

低体温療法はできるだけ早く導入するべきと言われており、低体温療法の開始が1時間遅れるごとに死亡率が20%上昇するとも言われています。

看護師は低体温療法導入を速やかに開始できるように、自施設の低体温療法の導入方法をしっかりと理解しておきましょう。

おもな低体温療法の方法

循環ブランケット(メディサーム)と熱伝導パッド(ArcticSun5000)

画像引用元:アイ・エム・アイ株式会社

・冷却点滴の静注

循環ブランケット(メディサーム)

・熱伝導パッド(ArcticSun)

また低体温療法を行うにあたって人工呼吸器、CVカテーテル、動脈圧ライン、スワンガンツカテーテル、場合によってはIABPやPCPSが使用される場合もあるので、低体温療法の準備だけでなく各デバイス類の準備もスムーズに行う事がポイントです。

低体温療法中の体温モニタリングは腋窩温ではなく中枢温が測定できる膀胱温や直腸温が推奨されています。スワンガンツカテーテル留置中なら肺静脈温が測定できますが、スワンガンツカテーテルが留置されていない場合は温度センサー付きの尿道留置カテーテル等が必要になります。

また低体温療法は鎮痛鎮静薬や筋弛緩薬の投与を行います。低体温に伴う循環抑制も考えられるためカテコラミンの投与もすぐに行えるようにしましょう。

筋弛緩薬を投与する理由は?

低体温療法中の患者さんに筋弛緩薬を投与する理由は、シバリングを予防する為です。

人間は体温が下がるとシバリングを起こすことで体温を上げようとします。シバリングによる体温上昇は低体温療法の妨げとなるので、筋弛緩薬を使用してシバリングを抑制します。

もしシバリングが発生した場合は鎮静剤を早送りし、それでもシバリングが起こるなら筋弛緩薬の早送りor筋弛緩薬の増量が必要になります。

筋弛緩薬のモニタリング

BISモニター

画像引用元:麻酔科勤務医のお勉強日記

筋弛緩薬のモニタリングはBISモニターかTOFモニターが推奨されています。

BISモニターは脳波を数値に表すことによって、筋弛緩薬投与中の覚醒の有無をモニタリングできます。

TOFモニターは患者さんに対し、刺激電流を4回流してその内何回筋収縮があるかをモニタリングする事で筋弛緩薬の交換を確認します。

鎮静目標

低体温療法中はRASS-4~-5を目標とします。

筋弛緩薬を投与している為、もし覚醒していても患者さんは動けない事を頭に入れておきましょう。

筋弛緩薬投与中の為、もちろん覚醒テストも不要です。

末梢保温

低体温により末梢血管が収縮することにより、四肢末端にチアノーゼが起こりやすいです。

またノルアドレナリンを使用しているとさらに末梢血管収縮効果によってチアノーゼが進行しやすいです。

末梢循環不全から壊死に至る事もあるので、必ず四肢はバスタオルや毛布で保温を行いましょう。

またシバリングは中枢温と末梢温の乖離で発生しやすいと言われているため、末梢保温はシバリング対策に有用であると言われています。

低体温療法中の高濃度酸素は弊害あり!?

JRC蘇生ガイドライン2015では、呼吸管理に関して『低酸素症の回避を推奨し、高酸素症の回避を提案する』と記載されています。

高酸素群は優位に死亡率が高いとの報告もあるので、SaO2=94%(PaO2=75mmHg)を下限としながら、高酸素の投与を避ける事が推奨されています。

家族のケア

ICU看護師なら低体温療法は珍しくない治療ですが、家族にとっては初めて目にする治療だと思います。

家族には脳を守るために身体を冷やす治療を行っていること、その為身体に触れると冷たくなっていること、身体を冷やすために専用の装置を使用していること、12~24時間後にゆっくりと体温を戻していくこと、低体温治療中は鎮静剤で意識が確認できない状態である事をしっかりと伝えましょう。

特に身体が冷たい事でショックを受ける家族が多いので、必ず面会のはじめに伝えておきましょう。

低体温維持期

2010年のAHAガイドラインでは、低体温療法は 32~34℃の体温を12~24時間維持する事が推奨されていましたが、2015年のAHAガイドラインでは、『32~36℃を少なくとも24時間維持する』と更新されています。

褥瘡、無気肺予防

鎮静および筋弛緩薬投与による影響で、咳嗽反射が行えないので、同一体位による無気肺のリスクは高くなります。その為、可能ならば体位変換も行っていきましょう。

また低栄養や同一体位による褥瘡発生のリスクもあります。循環動態が不安定な場合で体位変換が難しくても、適宜除圧を行う、皮膚保護剤を使用するなどの褥瘡対策も必要です。

熱伝導パッドによる皮膚トラブルに注意

熱伝導パッドのArcticSunは低体温療法に有用ですが、パッド張り付け部に皮膚トラブルを起こす可能性がある為、適宜観察が必要です。

特にパッド貼付部の辺縁に水泡形成をきたしやすいです。その為こまめに観察を行い、パッドの貼り付け位置を少しずつずらす様にしましょう。

全身清拭は行う?

筆者の施設では低体温療法中は目標体温を維持する事が重要なので、全身清拭はパッドを外す時間を短くして、複数人で手早く行います。

循環動態が不安定な場合は無理して全身清拭を行わなわず、部分的に清拭を行います。

復温期の看護

目標する低体温期間が終了すれば、体温を徐々に元へ戻していきます。この体温を戻す期間を復温期といいます。

低体温療法を開始してから24時間後あるいは目標体温に到達してから24時間後に復温を開始します。

加温のペースは一時間あたり0.25℃~0.4℃のペースで、37℃まで加温をおこないます。筋弛緩薬や鎮静鎮痛薬は目標体温に達するまで投与し続けます。

復温期の合併症

・加温による血管拡張で血圧低下

・高カリウム血症

・低血糖

・高体温

特徴としては低体温導入期と対称的な合併症が起きやすいです。

高体温は37.6℃以上となると予後が不良になると言われているので、復温期に体温が上昇しすぎている場合は、早期に医師へ報告し、クーリング等の対応を行います。



低体温療法の観察項目

循環器系

低体温療法の合併症で徐脈や心拍出量の低下があり、その影響で血圧低下が起こしやすいです。収縮期血圧は90mmHg以上に保つ事で脳還流が維持できると言われているので、血圧のモニタリングを行いましょう。

また復温期は血管拡張に伴う血圧低下が起こる可能性もあります。低体温が進むと低カリウム血症となり、復温期には高カリウム血症となります。電解質の異常から不整脈が起こる可能性もある為、心電図もモニタリングは必須です。

・低体温導入期における血圧低下、徐脈、高度低カリウムによる心室性不整脈(VTなど)

・復温期には高カリウム血症による心電図異常や血管拡張による低血圧に注意

呼吸器系

高濃度の酸素投与は死亡率が上昇するという報告がある為、SaO2=94%(PaO2=75mmHg)を下限としながら、高酸素の投与を避ける事が推奨されています。

SPO2も100%を目標とするのではなく、97%程度でコントロールしましょう。

末梢冷感でSPO2測定が行えない事も多いので、EtCO2も併用してモニタリングしましょう。低体温療法中は、PaCO2:40~45mmHgまたはEtCO2:35~40mmHgでの管理を推奨されています。

咳嗽反射の消失や、臥床が続くことにより背側に無気肺を生じやすいため、呼吸音は背側もしっかりと聴取しましょう。

・高濃度酸素は有害!SPO2:94~97% EtCO2:40~45mmHgでコントロール

代謝系

低体温により糖代謝が抑制されたり、インスリンの分泌が抑制される。またカテコラミンによるインスリン抵抗性もあり、低体温導入期には高血糖を生じやすくなります。

血糖コントロールは180mg/dl以下あるいは200mg/dl以下にコントロールする事が重要であるとされており、1時間~2時間おきに測定して血糖コントロールする事が必要です。

復温期には逆に低血糖になる事が多いため、復温期もこまめな血糖測定が必要となります。

凝固系

低体温となると血液凝固機能が低下することにより、出血傾向となります。

ルート刺入部からの出血はもちろん、胃管から出血が無いか、受傷時の挫傷が悪化していないか等も観察しましょう。

電解質異常

低体温の際に血中のカリウムは腸や細胞内に移動してしまい、インスリンの投与もあって低カリウム血症となりやすいです。

軽度の低カリウム血症(K:3.0~3.5mEq/L)は無症状の事が多いですが、高度の低カリウム血症(K:3.0mEq/L以下)はVTなどの不整脈を起こす可能性が高くなるので補正が必要になります。

復温期には細胞内に移行していたカリウムが血中へ移動する為、高カリウム血症となる場合が多いです。

高カリウム血症ではテント状T波、P波の消失、QRS延長などが観察されます。

頭蓋内圧亢進

復温期には脳の温度が上昇することで、脳の血管が拡張します。

その結果頭蓋内圧亢進に伴う痙攣が生じる事があります。復温期は頭蓋内圧(ICP)をモニタリングしながらの復温が望ましく、ICPが急激に上昇した場合は復温を中止する場合もあるので、早急に医師へ報告が必要です。

スキントラブル

輸液や低栄養などによる浮腫で皮膚トラブルが発生しやすい状態となっています。

特にArctic Sunを使用しているとパッド貼り付けによる皮膚トラブルが起きやすいので、必ず各勤務で観察を行いましょう。

急性期は体が浮腫になるが、パッドは伸縮しないため徐々にパッドが体に食い込みやすくなるので、4~6時間毎にパッドを一旦外して場所を少しずらして貼り変える事がスキントラブルの予防になります。

パッドは辺縁部に最も圧がかかりやすいので、辺縁部にスキントラブルがきたしやすいのも特徴です。



まとめ

・低体温療法は心肺停止蘇生後の脳後遺症予防に行う

・心停止後症候群(PCAS)に対しては低体温療法と冠血行再建治療(PCI)が有効

・低体温療法は低体温療法導入期、低体温維持期、復温期に分けられる

・体温療法の開始が1時間遅れるごとに死亡率が20%上昇するとも言われているので、低体温療法導入を速やかに開始できるようにする

・低体温療法の合併症は、心拍出量の低下、不整脈、高血糖、出血傾向、易感染状態など

・低体温療法中はシバリング予防の為に筋弛緩薬の投与を行う

・低体温療法は32~36℃を少なくとも24時間維持する。その後はゆっくりと元の体温へ戻していく。この体温を戻す期間を復温期と呼ぶ。

近年は救命だけでなく、社会復帰を目指す心肺蘇生から心肺脳蘇生の時代へシフトチェンジしています。

低体温療法は脳保護の為に重要な治療ですが、合併症も多く、看護師の観察による異常の早期発見が必要です。また家族のケアも重要なので、低体温療法にはICU看護師の力が求められます。