看護

【心臓外科の術後看護】体外循環・人工心肺装置についての話

心臓手術では普通の手術と違い、体外循環や心停止下手術などが特徴的です。心臓外科手術の看護を理解するには、体外循環、いわゆる人工心肺装置についての理解が必要です。

この記事では①人工心肺使用の特徴②心筋保護・低体温手術③術後観察ポイントを紹介します。

心臓血管外科のドレーン管理開心術の手術の流れも記事にしていますのでよければ参照してください。

体外循環・人工心肺とは?

体外循環つまり人工心肺を使用しての手術は心臓外科の特徴でもあります。心臓の手術では心臓そのものを治療するので、手術中は心臓の代わりとなるものが必要になりますそれが人工心肺装置です。

人工心肺は「ポンプ」とも呼ばれ、手術中に心臓や肺の代わりとなって、「心臓のポンプ機能」と「肺の酸素化機能」を行います。

人工心肺装置は体から血を抜く「脱血回路」と、血液に酸素を与え体へ戻す「送血回路」から成り立ちます。イメージとしては大きな透析回路みたいなものです

引用元https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%BA%E5%B7%A5%E5%BF%83%E8%82%BA%E8%A3%85%E7%BD%AE

大きな透析回路?

透析はシャントやブラッドアクセスカテーテルから脱血と送血を行います。人工心肺も基本的には同じで、脱血と送血を行います。

透析と違い送血は大動脈脱血は大静脈と人間で一番大きな血管を利用しているので流量が多いのです。つまりはPCPS(経皮的心肺装置)とほとんど同じです、PCPSも大きな血管から脱血して機械で酸素化をして体内へ送血しています。

心臓と肺の代わりという点では、人工心肺とPCPSの違いはありません。

人工心肺とPCPSの違いは?

PCPSと人工心肺の違いは心臓の手術に対応できるかどうかです。

PCPSは脱血と送血の回路だけですが、人工心肺は脱血と送血の回路以外に手術中の出血を吸引する回路があるのが大きな特徴です。

吸引回路はベント回路と呼ばれ、手術中の出血を吸引したり、人工心肺を使用すると左心室に血が溜まってしまうので左心室を吸引する役割があります(LVベントと呼ばれます)。

また手術終了前に心臓を閉鎖した際に空気があると脳へ飛んでしまう事があるので、ベント回路によってAIR抜きをする用途もあります。

・人工心肺は心臓を手術する為に、心臓の代わりをする為の器械。

・人工心肺はベント回路と呼ばれる吸引回路がある。ベント回路は手術の出血を吸引したり、AIR抜きをしたりする用途。



人工心肺使用時の特徴

体外循環後の看護を行うには、人工心肺の特徴を知っておくと理解が深まります。

ここでは人工心肺を使用した手術の特徴をまとめました。

1.非生理的なので異物反応が起きる

体外循環による血液の流れは、体内から抜かれた血液が人工心肺の回路を通り、再び体内に戻っていきます。つまり『血液が一旦異物に触れて体の中に戻る』という状態になります。

人工心肺の回路の中は血が固まらないようにヘパリンでコーティングされているのですが、かなり非生理的な状態であり、生体には大きな侵襲がかかります。

異物反応、いわゆるSIRS(全身性炎症反応症候群)を引き起こし、炎症の増加血管透過性亢進による浮腫臓器障害出血傾向を生じることになります。

こういった理由から、人工心肺を使用した患者さんは浮腫になってしまうのです。

2.体外循環を行う為にヘパリン化が必要

人工心肺を使用するには回路内で血液が凝固してしまわないようにヘパリンを投与し、血液が固まりにくい状態、いわゆる『ヘパリン化』が必要になります。

ヘパリンの投与後はACT(活性化凝固時間)を適宜測定し血液凝固をモニタリングし、血液が凝固しないようにしています。

人工心肺使用中は一定時間ごとにACTを測定し、400秒以上に保つようにしています。人工心肺使用後はヘパリンの中和目的でプロタミンを投与し、ACTが120秒に近づくようにして出血を予防します。

術後は出血しないようにコントロールされているのですが、まれにヘパリンの効果が残っていて出血傾向になってしまう場合もあります。

ドレーンからの出血が止まらずに、プロタミンの静脈注射が必要となったケースもあるので、術後の凝固能は注意が必要です。

3.人工心肺装置の離脱が必要

手術中は人工心肺で循環が補助されていますが、手術終了時には人工心肺の離脱が必要です。

人工心肺の稼働時間は3~4時間が安全に使用できる時間といわれています(文献により様々ですが)。稼働時間が伸びれば伸びるほど術後の合併症のリスクも増えますし、何よりも人工心肺そのものからの離脱が困難となる場合もあります。

人工心肺からの離脱が困難な場合は、IABPPCPSといった補助循環でサポートして人工心肺の離脱を図ることもあります。

最近では人工心肺離脱困難例に対し、VAD(補助人工心臓)の使用を行う場合もあります。

4.心停止下手術である

全てにおいて心停止下で手術を行うわけではないですが、人工心肺使用時は心停止下で行う手術が多いです。

一度心臓を止めてから再度心臓を動かすので、不整脈や心不全のリスクは高くなります。

心拍動下冠動脈バイパス術(OFF-PUMP CABG:OPCAB)において人工心肺で心臓をサポートしながら、心停止は行なわずに手術を行なう場合もあります。

5.大動脈遮断

人工心肺使用時は上行大動脈を大きな鉗子でクランプ(遮断)します。こうすることで心臓の中の血液は空っぽになり手術がしやすくなります(無血野と言います)。

クランプした反対側では人工心肺から血流が流れているので、クランプしないとその血流が心臓に流れてきてしまい手術が困難になります

そして脱血管というものが大静脈に留置されるので、心臓へ戻ってくる血も人工心肺へ回収されます、こういう仕組みで心臓であっても良好な視野を確保して手術が出来るのです。

6.心筋保護が必要

大動脈遮断が行われると、冠動脈への血流が遮断されるので心筋へ酸素が供給されず壊死をおこします。そうなると手術が終わっても心臓が動かなくなります。

心停止中の虚血時間を延長する方法として心筋保護液の注入を行ないます。心筋保護液は15℃程度に冷却されており、心筋の酸素需要や代謝を抑制する効果をもちます。

またカリウム濃度がとても高く、心筋保護液を注入することで速やかに心停止を起こし手術操作へと移行できます。

7.低体温法

心筋の酸素需要と代謝を抑えるもう一つの方法として、心停止手術は低体温下に手術が行われます。低体温法は軽度(30℃まで)・中等度(25℃まで)・超低体温(20℃以下)と分けられます。

CABGだけの症例では34℃程度にコントロールする場合もあります。逆に大血管、とくに弓部の置換などでは脳の代謝をできる限り抑える目的で低体温(あるいは超低体温)で行われることが多いです。



 人工心肺使用時の合併症

体外循環の影響で脳の低酸素血症や脳浮腫をきたす場合があります。

術後の脳浮腫が軽度の場合は自然に軽快する場合が多いですが、脳浮腫が重度の場合は降圧目的でグリセオールの投与を行ないます。

塞栓症

空気や血栓、脂肪などの組織片が脳に飛んで塞栓症を引き起こす可能性もあります

脳梗塞が広範囲になれば、呼吸状態・対光反射・瞳孔径の左右差・MMT(徒手筋力テスト)の変化・痙攣が出現する場合があります。

溶血

人工心肺装置の機械的な刺激によって、赤血球が破壊され溶血する場合があります過度の溶血では低酸素血症の原因となります。

溶血時はヘモグロビン尿というコーラの様な色になります。溶血時にはハプトグロビン製剤の静注を行う場合もあります。

出血傾向

血小板が人工心肺回路に吸着し血小板が減少します。その結果出血傾向となります。

また人工心肺使用時は輸血を行なう事も多いですが、輸血には血液凝固を防止するクエン酸ナトリウムが入っています血液凝固にはカルシウムイオンの働きが必要ですが、輸血に含まれるクエン酸ナトリウムが血液内でカルシウムと結合してクエン酸カルシウムとなります。

この為血液中のカルシウムの減少がおきます。その為大量に輸血した場合は低カルシウム血漿となり、術後に出血しやすい理由の一つとなっています。

腎不全・肝不全

血液の希釈や循環不全による臓器血流障害により、腎不全や肝不全がおこる可能性があります。

例えば肝臓への血流障害があれば、肝不全となり術後に黄疸が発症する事もあります。腎不全では一時的に術後に透析を必要とする場合もあります

もともと肝臓や腎臓の疾患がある場合はリスクが高くなります。

人工心肺離脱困難

手術中は人工心肺を使用していますが、手術終了時には人工心肺を離脱する必要があります。

しかしもともと心臓の機能が悪い場合や、心停止・人工心肺の時間が長い場合などは心臓の動きが悪く人工心肺の離脱が困難となるケースもあります。

人工心肺を装着したまま退室するわけにもいかないので、PCPSやIABPといった補助循環装置を使用します。



人工心肺使用時の術後観察ポイント

心拍数

手術に関するさまざまな影響をうけやすいです。手術侵襲による刺激伝導系の異常による徐脈や、循環血流量の減少からくる上室性頻脈などが考えられます。

術後に洞結節の障害でP波の無い波形、いわゆる房室調律(接合部調律)が見られる場合があります。これは手術の影響で洞結節に異常が起き、代わりに房室結節がペーシングをしている状態なので、必要な心拍数を得られなくなる場合はペースメーカーを必要とします。

心拍数の増加、血圧の低下、冷汗、ドレーン排液の減少などあれば心タンポナーデを疑います。ドレーンが排液できず心臓の周りに血が溜まり、心臓の動きが制限されることで血圧低下心臓は拍動できない分を回数で補うとするので頻脈になる交感神経が刺激され冷汗がでるといった感じです。

頻脈でも循環血流量が少なくて脱水なのか、もともと術前からAfなどの不整脈はないか、などアセスメントが大切です。

低血圧

人工心肺使用後は元の心機能と比べて機能は落ちています循環血流量が減少しているのか、刺激伝導系の異常による徐脈で血圧が保てていないのか、心機能の低下によるものなのか、といったアセスメントは必要です。

刺激伝導系の異常は徐脈ならペースメーカー、頻脈に対しては薬剤の投与や除細動を行ないます。

循環血流量が適正だけど血圧低下がみられる場合はカテコラミンで対応します。循環血液量が足りない場合は輸液負荷や輸血を行ないます。

看護師はドレーンからの廃液が増加していないか、性状はどんどん血性になっていないか、術後出血の可能性も常に意識しましょう

術後は挿管管理がほとんどです、手術後に覚醒がみられて鎮静剤を開始するとその影響で血圧低下がおこるので注意が必要です。

水分出納

術後は手術侵襲・術中輸液・人工心肺の影響で水分過多の状態であると思って下さい。体外循環後は利尿の亢進があるので尿量が多くなります。

しかし手術侵襲や体外循環の影響で血管透過性が亢進しているので、術後数時間してから血管内脱水となる場合も多いです。

浮腫は増強して血管内は脱水になるということがあるので、CVPやPAP、SVVなどの数値による評価も大切です。

腎機能

人工心肺使用後の術後は利尿の亢進がありますが、腎機能低下による尿量低下に注意が必要です。

腎機能そのものの低下では利尿薬や一時的に透析の導入が必要となる場合もあります。ごくまれに尿道留置カテーテルの閉塞の可能性もあるのでしっかりと観察が必要です。

とくに術直後は1時間おきに尿量チェックしIN・OUTバランスのアセスメントが重要です。

血液凝固

人工心肺の影響で血小板・凝固因子の希釈、使用したヘパリンの残存などで凝固能が低下する可能性が高いです。

とくにドレーンからの排液を注意深く観察し、血性の排液が続くようなら医師へ報告する事も必要です。

場合によってはACT測定を行い、ACTの延長があればプロタミンの投与を必要とする場合もあります。

人工心肺時間が長くなるほど出血や溶血のリスクが上がることも意識します。

脳神経

人工心肺による空気や脂肪・組織片による塞栓症の可能性がある事を意識しておきましょう。

瞳孔径の観察は必須です、術後は特に早期発見に繋げることが大切です。



心臓血管外科のおすすめ参考書

実践 心臓血管外科手術マニュアル

心臓血管外科の手術を担当するなら読んでおきたい一冊です。

 

OPEナーシング発行の参考書で、手術室看護師さん向けの本ですが病棟看護師にもわかりやすく手術の流れが記載されています。

 

体外循環はもちろん、人工弁や人工血管についても記載されているので、手術室看護師なら絶対に持っておきたい本です。

 

心臓血管外科の術後管理と補助循環

 

ICUに配属となれば心臓血管外科の術後管理についての知識は必須となります。

 

この本は「雑誌・重症集中ケア」に掲載されていた内容の総集編で心臓の解剖整理から各疾患、IABPやPCPSといった補助循環までしっかりと解説されています。

 

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